「死後は自然に還る」ということ・・・樹木葬をめぐって 1

ここ数年「樹木葬」とよばれる葬送法に世の中の関心・人気があるようです。
樹木葬は一般的には、墓石に代えて花や樹木を墓標とし遺骨を地中に直に埋葬するお墓のスタイルとされています。散骨のような「自然葬」の一種と誤解されている人も多いようですが、墓埋法(墓地、埋葬に関する法律)によって墓地・霊園として許可された区域内でしかできません。その意味では「樹木葬墓」と言っても、墓石、カロート(納骨室)を用いない点が違うだけで、従来からの区画使用型、集合型、合葬型などのお墓と概念は同じです。

ただし、樹木葬のお墓は、概ねが家単位ではなく個人単位で求めることができお墓の継承者も不要です。このため、子どものいない夫婦や生涯独身の人、子どもがいても「死後の墓の世話をかけたくない」という人たちには選択肢となります。しかし、それ以上に、遺骨は骨壺に入れられカロートに収納されるのが通例のこれまでのお墓と違い、遺骨が地中に直に埋葬されることが「死後は自然に還る」ことにつながり、また墓標として植えられる花樹に転生するイメージがあることも、人気の要因なのではないでしょうか。

昨年(2012年)、東京都が公立の霊園では初めてとなる「樹林墓地」を小平霊園に開設したところ、反響が大きく、応募倍率は何と16倍を超えたとのことでした。このため今年度(2013年)は、定員を3倍超(1,600体)にして募集するそうです。

小平霊園の「樹林墓地」は山林や原ではなく、霊園敷地内に草地を造成して、コブシやネムノキなどの落葉花木を植え、その下の地中に遺骨を直埋蔵する施設です。謂わば、小さな森を擬した人工的な植林地に土中埋骨するスタイルの墓地です。墓石・墓標は建てられません。埋骨も個別ではなく合葬され、別途に合同の献花台が設置されています。高い人気の一方で「公設の骨捨て場」と悪口・陰口を言う人もいるようです。
なお、隣接地には2014年の開設を予定する「樹木墓地」なるものも造成が進んでいます。こちらは樹木を共同墓標に見立て、その周囲の地中に個別区画を設けて30年間埋骨(30年経過後は上記「樹林墓地」に合葬)できるとのことです。

樹木葬墓地はもともとは、豊かな自然がある野山の環境を、荒廃や開発による破壊から守り後世に残すという目的から始まりました。そのために人工物を一切排した葬送とお墓のかたちが生まれたのです。文字通り、そこの自然を守り、自然と共生し、死後はそこに永遠の眠りを得ることで自然に還り、自らその一部になっていくというのが草創の趣旨でした。
その趣旨からすると、人工的に樹林地の景観を造成した環境がはたして「自然」と言えるのか疑問のあるところですが、小平に先んじて多く開設されている民営の「樹木葬墓地」にも、従来からの墓石を建てた区画分譲墓地の隣に、この種の”樹林景観墓地”とでもいうべきエリアを人工的に造成したものは多く見られます。

しかし、そのような”樹林景観墓地”でも従来型の墓よりニーズは高いのが現実です。自然志向・環境志向のライフスタイルと相俟って、多くの人が樹木葬によって「死後は自然に還る」ことができるという思いを抱いているからのようです。小平霊園の造成趣旨にも「死後は自然に還りたい、という都民の思いに応える」とあります。

小平霊園の「樹林墓地」が公営の墓地として画期的なのは、やはり遺骨を直接土中に埋葬できる点です。と言うのも、一般に公営の墓地では、たとえ従来型の家単位の区画墓地でも公共の土地ですから、遺骨を土中に直に埋葬することは認められません。必ず地下カロートを造り、個別に骨壺などに収めて埋骨することになっています。家単位ではない集合墓でも同様です。

民営の墓地でもそうした納骨規則のところが今は多いようですし、地域的に骨壺ごと埋骨するのを通例慣習とするところもあります。しかし、寺院墓地や代を重ねた家墓の多くは、遺骨は骨壺から出して土中のカロートに直埋葬するのがふつうです。そうすることによって、骨は時間をかけて崩れ、溶けて、土に混淆していきます。古来から、こうした化学プロセスを意識して日本では「死して土に変わる」とか「身は果ててこの地の土となる」という表現がされてきました。

しかし、基本的に公営墓地では、遺骨は半永久的に骨壺に封じられ、直に土中に入れられることはありません。これは、その墓の使用者が転居などで改葬したり、墓の継承者がいなくなって継続使用できなくなった場合に、その墓を整理し、新たに墓を必要としている別の都民・市民が使えるようにするためです。

「樹木葬(墓)」では、遺骨は骨壺から出し、粉骨化するか、自然素材の布袋や生分解する容器に移し替えて土中に埋骨するのが基本です。小平霊園の「樹林墓地」もこれに準じています。
つまり、まちがいなく、死後の遺骨は小平霊園の「土に変わる」わけです。公共霊園の土地利用としては、従来とは例外的なこと対応と言えます。

もちろん、公営以外の寺院墓地や民営墓地の代々墓(家墓)や合葬墓で直埋骨するケースも、やがて遺骨が「土になる」ことは変わりません。
しかし、「樹木葬(墓)」の場合には、その間、墓標としての地上の樹木は、花を咲かせ葉を落とし、また花を咲かせ・・・と自然のサイクルを繰り返しながら成長していきます。もともと自然との共生感情が強い私たち日本人には、それが、あたかも死後の遺骨が土中で自然を形成する一部に変わり、樹木や森を育んでいるかのよう-「土になる」が「土に還る」に、そして「自然に還る」へとイメージされる・・・・のでしょう。

しかし、それは本当に「死後は自然に還」っていくことになるのでしょうか? また、人工的に造形・整備された”樹林景観墓地”に埋骨されることが、樹木葬として本来のすがたなのでしょうか? これには異論も出ています。(つづく)